「人に任せた方がいいのは、わかっているんです」
これは、私が10年以上コンサルティングの現場で、最も多く聞いてきた言葉のひとつです。一人でビジネスを立ち上げ、動かしている方ほど、気がつけば全ての作業と判断を自分で抱え込んでいます。そして多くの方が、その状態を「自分の性格の問題」だと考えています。
一人で全てを抱え込んでしまうのは、なぜなのでしょうか。この記事では、私が実際に見てきた「手放せなくなる仕組み」と、抱え込みをほどいていく順番についてお話しします。
「気がつけば、全部自分がやっている」という状態
以前、ブランディングプロデューサーとしてサポートをさせていただいたクライアント様から、こんな言葉をいただいたことがあります。
「気がつけば、真理さんは私にとって、なくてはならない存在になってました。いつも先を読んでは、仕事の流れを導いてくださり、ありがとうございます。」
この方は、一人でビジネスを立ち上げ、日々奮闘されている中で、Webに関する悩みと業務過多に悩まれていました。
けれど出会った当初、この方は人に任せることに強い抵抗を感じていらっしゃいました。完璧主義な一面をお持ちで、「自分でやった方が早い」という感覚が身についていた。結果として、仕事は山積みになっていきます。
頭の中は常に「やりたいこと」でいっぱいで、まさに車が大渋滞しているような状態でした。
私はこの「渋滞」という状態を、10年以上の現場で何度も見てきました。共通しているのは、やることが多すぎるという以上に、判断が終わらないまま次の判断が入ってくるという状況です。
たとえば、こんな一日です。
朝、ブログを書こうとPCを開く。書き始める前に、返信していないメッセージが目に入る。返信しようとすると、先に確認すべき資料があったことを思い出す。資料を開くと、来月のイベント告知をまだ出していないことに気づく。告知文を書き始めると、そもそも今回の企画で何を一番伝えたかったのか、自分でもはっきりしていないことに気づく。
そこで手が止まって、気分を変えようとSNSを開く。同業の方の投稿が目に入って、少し焦る。焦った状態で、また別の作業に手をつける。
結局、その日は何も完了しないまま夜になります。
こういう日が続くと、多くの方が同じことを言われます。「忙しいのに、進んでいる感じがしない」。手帳を見ると、同じタスクが何週間も繰り越されている。けれど毎日きちんと働いている。だから余計に、自分の管理能力を疑ってしまう。
こうした状態を「時間管理が下手だから」と説明されることがありますが、私はそれだけではないと考えています。
時間の使い方だけが原因なら、スケジュールを組み直せば解決するはずです。けれど実際には、多くの方が既に何度もスケジュールを組み直していて、それでも同じところに戻ってきています。
一人で抱え込んでしまうのは、性格の問題ではありません
私は独立する前、19年間、金融系のシステム開発に携わっていました。この仕事で徹底的に訓練されたのは、情報を構造として扱うという見方です。
システムで処理が滞るとき、原因が「処理する側の能力不足」であることは、実はあまり多くありません。多くの場合、処理の経路が一本しかないことが原因です。どれだけ性能を上げても、通り道が一本なら、そこで詰まります。
一人でビジネスを動かしている方の頭の中も、これに近い状態になっていることがあります。
営業も、制作も、経理も、発信も、全ての判断が最終的に一人のところへ集まってくる。作業そのものは誰かに渡せたとしても、「これでいいかどうかを決める」という部分は渡せない。だから結局、全部が自分のところに戻ってきます。
ここで一度、「自分でやった方が早い」という感覚について考えてみたいと思います。
私はこの感覚を、間違いだとは思っていません。むしろ、多くの場合は正しい計算です。人に説明するのに30分かかる作業を、自分でやれば10分で終わる。1回だけなら、自分でやった方が確実に早い。
ただ、この計算には抜けているものがあります。その作業を、これから何回繰り返すのかという視点です。
システム開発でも、同じ判断が常にありました。ある処理を手作業で続けるか、自動化するか。判断の基準は難しさではなく、頻度です。年に1回なら手作業のままでいい。週に3回なら、時間をかけてでも仕組みを作った方がいい。
私が現場で見てきた限り、抱え込みが続いている方の多くは、この「回数」を数えていません。毎回、目の前の1回について「今日は自分でやった方が早い」と判断している。その判断自体は正しいので、疑いようがない。だから何年も同じ状態が続きます。
もうひとつ、私が現場で見方を変えた点があります。
多くの方が、自分のことを「完璧主義だから任せられない」と説明されます。冒頭のクライアント様も、そうおっしゃっていました。けれど私は、少し違う見え方をしていました。
任せられないのは、意思が弱いからでも、完璧を求めすぎるからでもありません。任せる前提になる判断の基準が、まだ言葉になっていないからです。
自分の中には基準があります。この文章はうちの雰囲気に合っている、この写真は違う、この言い回しはお客様に届かない。長年の経験で身についた、確かな感覚です。けれどそれは感覚の形をしていて、外に出せる形になっていません。
言葉になっていない基準は、渡せません。渡せないから、確認が必要になる。確認が必要だから、結局自分で見ることになる。それなら最初から自分でやった方が早い、という結論に戻ってくる。
これは性格ではなく、仕組みだと私は考えています。そして仕組みであるなら、性格を変えなくても、ほどける可能性があります。
抱え込みは、心 → 思考 → 時間 → 現実の順でほどけていきます
私が思考整理でお伝えしているのは、「考え方を変えましょう」ということではありません。思考を正しい位置に戻す、という作業です。
その順番を、私は4つのプロセスとして整理しています。
- 心の整理
-
手放せない状態の裏にある感情を認める
- 思考の整理
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判断の基準を言葉にする
- 時間の整理
-
言葉になった基準に沿って、渡すものと持つものを分ける
- 現実の整理
-
実際の行動と体制を組み替える
多くの方が、この順番を逆から始めようとされます。そして、逆から始めたときに起きることには、いくつかの決まったパターンがあります。
- 現実から始めた場合
-
外注先を探すところから入る。けれど渡す基準がないので、説明に時間がかかり、上がってきたものを自分で直すことになる。「やっぱり自分でやった方が早い」という確信が強化されて終わる
- 時間から始めた場合
-
タスク管理ツールを導入する。やることが可視化されるので一時的にすっきりするが、判断の量は変わっていない。むしろ、終わっていないタスクが一覧で見えるようになった分、負担が増えることもある
- 思考から始めた場合
-
優先順位をつけようとする。けれど「これを手放すのは怖い」という気持ちが残っていると、その気持ちが優先順位に混ざり込む。数日で元の順番に戻る
順番を飛ばして進めたときに何が起きるかについては、コンサルや講座を受けても結果が出ないのはなぜ?でも詳しくお話ししています。
では、なぜ心の整理が最初なのでしょうか。
抱え込んでいる状態には、たいてい感情が絡んでいます。任せることへの申し訳なさ、うまくいかなかったときへの不安、自分の仕事が減ることへの寂しさ。そして、これが一番大きいのですが、「全部やっている自分」でいることが、その方の支えになっている場合があります。
大変だけれど、回している。それが自信の根拠になっている。この状態で「手放しましょう」と言われても、体が動かないのは自然なことだと私は思います。
だから最初にするのは、手放すことではありません。今、何を感じているかを認めることです。認めた上でなら、手放すかどうかを選び直せます。認めないまま進めると、選んだつもりでも元に戻ります。
私が「業務の代行」から「思考整理」に移った理由
私が独立してから最初にお引き受けしていたのは、まさに手を動かす仕事でした。
- HPの管理運営
- ブログ記事の作成、代理投稿
- SNSの管理運営
- SNSの記事作成、代理投稿
- イベント案内のSNS・ブログ内での告知
冒頭のクライアント様に対しても、こうした業務を継続的にお引き受けしていました。結果として、この方はご自身のやりたいことに集中できるようになり、それまでゼロ件だったWeb経由の問い合わせや契約にも変化が出ました。もちろん、これはこの方の場合であり、成果は事業内容や時期によって変わります。
Webサイトとの向き合い方そのものについては、100万円HPは不要!?Webサイトは「育てる」ものでお話ししています。
ただ、私がこの時期に学んだことは、少し別のところにありました。
業務が減っても、判断の渋滞が残っていると、また同じ状態に戻るということです。
作業を引き受けると、確かに一時的に楽になります。けれど数ヶ月経つと、また別のことで手一杯になっている方がいらっしゃいました。減った分の時間に、新しい「自分でやること」が入ってくるからです。
これは、その方の意志が弱いからではありません。判断が一箇所に集まる構造そのものは、作業を渡しても変わらないからです。
だから私のサポートは、業務を代行するだけのものではありませんでした。「これをやってください」という一方的な指示でもなく、「仰せのままに」という指示待ちでもなく、その方のビジネスを深く理解した上で、一緒に考えて進む。二人三脚で伴走する。
この経験が、私が今「思考整理」を仕事の中心に置いている原点です。手を動かす部分は渡せます。けれど、判断の位置が整っていなければ、渡した先でまた詰まる。それを何度も見てきたからです。
なお、業務を人に依頼する際の契約形態や報酬の扱いについては、税務・法務の観点から確認が必要な場面もあります。具体的な進め方については、税理士や社会保険労務士など、専門家にご相談ください。
抱え込んでいると感じたら、自分に問いかけてみてほしいこと
もし今、一人で抱え込んでいる感覚があるなら、次のことを自分に問いかけてみるという選択肢もあります。
「これを人に渡すとしたら、どう説明するだろう」
頭の中で、説明を最後までやってみます。何を渡して、どこまで任せて、どうなっていたら完了なのか。
説明が途中で止まるなら、それは能力の問題ではなく、基準がまだ言葉になっていないというサインかもしれません。逆に、説明が最後まで通る作業があれば、それは今すぐ渡せる可能性があります。全部を一度に手放す必要はないと、私は考えています。
「渡せない理由は、品質ですか。それとも、渡した後の自分の立ち位置ですか」
品質が理由なら、基準を言葉にしていくことで進みます。時間はかかりますが、道筋ははっきりしています。
けれど後者だとしたら、そこには別の整理が必要になります。「全部やっている自分」でいることが支えになっている場合、手放すことは、支えを一度外すことでもあるからです。それ自体は悪いことではありません。ただ、気づいていないまま続けると、選び直すことができません。
このあたりの仕組みについては、変わりたいのに変われないでも触れています。
「この状態は、今回が初めてですか」
私が現場で最も大切にしているのが、この問いです。
抱え込んで、限界が来て、誰かに頼ろうとして、やっぱり自分でやることにする。この流れを、事業を始めてから何度か繰り返している方は、少なくありません。相手や状況は毎回違うのに、たどる道筋が同じ。そういう方にお会いすることがあります。
もしそうであれば、原因は今の仕事量ではなく、もっと前にある可能性があります。
私はそれを分岐点と呼んでいます。同じパターンが繰り返される、その起点です。
分岐点は、目の前の状況を眺めているだけでは見えてきません。今回の忙しさには今回の事情があり、前回には前回の事情があるからです。事情が違うので、同じパターンだと気づきにくい。共通しているのは出来事ではなく、そこで働いた判断の仕組みの方です。
だから分岐点まで辿るには、時間がかかります。私が継続コースを5ヶ月という設計にしているのは、そのためです。1回や2回の対話で辿り着ける場所ではないと、私は考えています。
最後に、ひとつだけ付け加えさせてください。
一人で抱えることが、常に悪いわけではありません。事業の立ち上げ期には、自分で全部やることでしか身につかないものがあります。「今は抱える時期だ」と自覚した上で選んでいるなら、それは十分に筋の通った判断です。
問題になるのは、選んでいるつもりがないまま、そうなっている場合です。気がついたらそうなっていて、抜け方がわからない。その状態が続くと、事業の判断が、体力の限界によって決まるようになっていきます。
一人で抱えたまま考え続けないという選択
一人で全てを抱え込んでしまうのは、あなたの性格や能力の問題ではないと、私は考えています。判断のルートが一本しかないという、仕組みの話です。
そして仕組みであるなら、順番を追って整理していくことができます。心を整理し、思考を整理し、それから時間と現実を組み替えていく。この順番を守ることが、遠回りに見えて確実だと、私は現場での経験から感じています。
ただ、この整理は一人では進めにくいものでもあります。
自分の判断の基準は、自分にとっては当たり前すぎて、意識に上がってこないからです。当たり前だと思っていることは、疑問の対象になりません。だから、外から問われる必要があります。
私がお伝えしているのは、答えではありません。あなたが自分で辿り着ける状態を作ることです。私が決めた答えは、あなたの事業では使えません。使えるのは、あなた自身の言葉になった基準だけだと、私は考えています。
一人で抱えたまま考え続けるかどうかは、選べます。
繰り返しているパターンがあるなら
抱え込んで、限界が来て、また自分でやることにする。この流れを何度か繰り返しているとしたら、原因は今の仕事量ではなく、もっと前にあるかもしれません。
継続コース(5ヶ月)では、その起点となる分岐点まで、一緒に遡っていきます。今すぐでなくても構いません。まずは、どういう時間なのかを見てみてください。
