「一年後の夢は?」に答えられなかった私
独立や起業を考え始めたころ、私も複数のコンサルやセミナーに参加していました。そこで講師の方に必ずと言っていいほど聞かれたのが、「一年後、十年後どうなっていたいですか」「あなたの夢は何ですか」という質問です。
周りの受講生は「月100万円稼いで海外旅行に行きたい」「自由な時間を持って、好きな場所で仕事をしたい」と、夢を膨らませながら楽しそうに話していました。
ワークシートには理想の未来を書き込む欄があり、講師の方はその実現に向けて「あなたはどうなっていたいですか」と問いかけてきます。
けれど、私は何も浮かんできませんでした。頭が真っ白になり、周りが盛り上がる中で一人だけ取り残されているような感覚がありました。
「なんで出てこないんですか」と講師の方に問い詰められ、その場をやり過ごすために、本心とは違う「理想の夢」をワークシートに書いたこともあります。書きながら、自分に嘘をついている居心地の悪さと、それでも何も浮かばない自分への情けなさが同時にありました。
「やりたいことも特にない自分は、何の役にも立たない人間なのではないか」。そう感じた時期もありました。もし今、同じような感覚を抱えているとしたら、それは能力や意欲の問題ではないと、私は考えています。
なぜ「本当にやりたいこと」が言葉にならないのか
19年間、金融系のシステム開発に携わる中で、私は「入力(インプット)がなければ、出力(アウトプット)も生まれない」という構造を、数えきれないほど見てきました。人の思考も、これと近い構造を持っていると私は考えています。
「一年後の夢」というアウトプットを求められても、そこに必要な入力、つまり「今、自分は何に幸せを感じているのか」「何が心地よくて、何が苦しいのか」という土台の情報が整理されていなければ、答えは出てきません。
無理に絞り出した答えは、多くの場合、過去に見聞きした「誰かの理想」の借り物になってしまいます。
独立してから10年以上、個人事業主の方々を中心に対話を重ねてきましたが、「やりたいことが見つからない」とおっしゃる方の多くに共通していたのは、能力の欠如ではなく、「学んだ分は取り返さなければ」「もう失敗はしたくない」という焦りや思い込みが、思考の手前に厚く積み重なっている状態でした。
この積み重なった思い込みや感情のわだかまりは、繰り返されるパターンの起点、私が「分岐点」と呼んでいる場所に根を持っていることが少なくありません。
分岐点まで丁寧に辿り直していくと、「本当は何を大切にしたかったのか」が、少しずつ輪郭を持って見えてきます。
そしてここで一つ、私が長年の対話の中で確信していることがあります。それは、思考を整理し、抱えている課題を一つずつ手放していくこと自体が、幸せに近づく道筋そのものだということです。
課題を手放すと、心もビジネスも同じように動き出す
これは、心の問題に限った話ではありません。ビジネスの相談を受ける中でも、私は同じ構造を繰り返し見てきました。
たとえば、「売上が伸びない」「発信のネタが尽きた」という事業の悩みや、協会やスクールを卒業した後に何をすればいいかわからなくなる悩みも、掘り下げていくと根っこにあるのは「これで合っているのか自信が持てない」「周りと比べて焦る」といった感情の整理不足であることが少なくありません。
逆に、「なぜこの事業をやっているのか」がぼんやりしたまま走り続けていると、心の面でも「本当にこれでいいのか」という不安が消えず、両者は切り離せない状態でこじれていきます。
思考整理・心の整理・時間の整理・現実の整理という段階を踏んで、抱えていた課題を一つずつ手放していくと、心が軽くなるだけでなく、ビジネス上の判断も自然と明確になっていきます。
これは、個人事業主の方々との対話の中で、私が繰り返し確認してきたことです。「やりたいことが見つからない」という悩みも、「事業の方向性が定まらない」という悩みも、根っこの部分では同じ構造でつながっている場合が多いです。
課題を無理に解決しようとするのではなく、まず手放す。その分だけ幸せに近づく余地が生まれる。この順序を意識することが、心の整理でもビジネスの整理でも共通して大切だと私は捉えています。
「今の幸せ」の延長線上にしか、未来はない
私が大切にしているのは、次の3つの視点です。未来のビジョンを無理に描こうとするのではなく、「今」から丁寧に積み上げていくための仕組みだと捉えていただけたらと思います。
- 今の自分が幸せであること:未来のビジョンを描く前に、今の自分がどんな状態にいるかを正確に把握します
- 未来の自分が今よりもっと幸せであること:今の幸せの延長線上に、未来の幸せを重ねていきます
- 目の前にいる大切な人を幸せにすること:自分一人の願望ではなく、関係性の中で自然に立ち上がってくる願いに目を向けます
できないから夢がないのではなく、今が幸せでなければ、その延長にある未来もまた輪郭を持ちにくい。これが、私が10年以上の対話の中で見えてきた構造です。
何が幸せでないのかが自分でもわかっていない状態で、「やりたいこと」だけを探そうとしても、堂々巡りになってしまうのは、ある意味で自然なことだと考えています。
この構造に気づいてから意識するとよいのが、次の3点です。
- 自分自身が作ってしまった思い込みや感情のわだかまりを、一つずつ解消していくこと
- 本来の自分に立ち返ること
- 「今」の自分と向き合い、「好き」「嫌い」を一つ一つ見つけていくこと
これらは一度で完結するものではなく、心の整理、思考の整理、時間の整理、現実の整理と段階を踏んで進めていくものだと、私は捉えています。特に「なぜその思い込みができたのか」という分岐点まで戻る作業は、一人で行うには難しい場合もあります。
自分に問うべきこと
もし今、「一年後の夢」を聞かれて何も浮かばないとしたら、一度立ち止まって、次のように問い直してみてはいかがでしょうか。
「未来に何を望むか」ではなく、「今、何を手放せば楽になるか」。この問いは、プライベートな悩みにも、事業の悩みにも、同じように使えます。答えを急いで作る必要はありません。むしろ、答えが出てこないこと自体が、今の状態を正直に教えてくれているサインだと私は考えています。
「やりたいこと」は、探すのではなく手放した先にある
「本当にやりたいこと」は、遠い未来から探してくるものではなく、今抱えている課題を一つずつ手放し、今の自分と丁寧に向き合った先に、おのずと見えてくるものだと私は考えています。
そしてこの構造は、心の整理でもビジネスの整理でも変わりません。
こうした整理は、一人で進めるには難しい部分もあります。分岐点まで戻り、思考を正しい位置に戻していく作業には、継続的な対話が必要になる場合が多いためです。
もし「じっくり向き合ってみたい」と感じたら、継続コースという選択肢もあります。まずは内容を知りたいという方には、無料相談もあります。
